神経病者と物語志向性3
神経病者とは、社会の不条理を抱え込み、それへの反抗をやめることができない人である。
物語は、人間を形成するもので、人間はめいめい物語に対する志向性を持つ。
ここで、神経病者における不条理は物語であるということができるだろう。
彼はあまりに大きな物語に出くわしてしまったために、物語志向性が変化してしまったのである。
彼の上げた声は全て彼独自の世界に依拠しているため、他の人には特異な物語として現象する。
多くの詩やデュシャンの≪泉≫によく表れているように、本にせよ芸術作品にせよ「作品」という形式はあらゆるものに物語性を与える。
神経病者が、独自の世界に依拠して、上げた声が「作品」として作り上げられたときに、特有の物語が提示、現象され、それらの物語が人の物語志向性を変化させる。
物語志向性が変わった人は、それによって世界が変わり、その人自身も変わるのである。
このようにして神経病者は人を変えることができるのだ。