文学
文学について思いを巡らしてみるのは誠に面白いことである。
文学は非常に特殊なものである。
まず指摘できることはその個別性である。数学に代表される様な理念的な学の働きが、同じものの同定であるとすれば、文学は唯一つのものの産出である。
その意味で、文学は極度に時代的、風土的制約を受ける。
そこから直ちに言えることは、人間とのつながりを保とうとするということである。
自然科学や数学の諸対象が、時間的空間的制約から逃れるためにあたかもそれ自体独立して存在するかの様に振る舞うのに対して、文学の対象は独立した意味を持ち得ない。
その理念的でないあり方にも関わらず、文学はある種の普遍性を備えている。
というのも文学がその価値を認められるのは、その内容が理解され、その中に何らかの価値を見出されるからに他ならないからである。
したがって文学作品は、ある程度不変の意味と、ある程度不変の価値がなければならぬのである。
この不変性は、幾何学における不変性とは厳密な意味で異なっている。
この不変性は言語化できないのである。